場所は広島県福山市、瀬戸内海の勝景を望む鉄鋼産業の街。
オーナーはまだ20代と若いが、そのひとなつっこい雰囲気と、ヘアスタイルへこだわる職人気質とが相まって、年齢では計れない人間性を感じさせる人物であった。 そんな彼の要望は「自分のライフスタイルに共感を覚える人が集まるような場所づくり」。 お酒と音楽をこよなく愛し、休日となれば得意の民族楽器片手にライブハウスへと足を運ぶ彼は、仕事と日常をオンとオフで区切る事はなく、普段の生活の延長上で運営できるお店を理想としていた。 敷地となるのは道路に面するテナントビルの1F、一般的なテナント区画。通常想定されるヘアサロンであれば、その1区画で十分なのだが、顧客との対話を重んじるが故に、個室をつくり、バーカウンターをつくり、としていくうちに所要面積はどんどん広がり、結局その1Fの2区画を借り、躯体壁を取り壊し1室として使用する事になった。 そこまでのこだわりを形にするお手伝いができて設計者として力が入った。 苦労した部分は「手を加えていない様でいて計算されている空気感」を出す事。 デザインが前面で主張するのではなく、あくまで主役のお客様がすっと際立つ空間を構成する。 家具や什器も工業的な既製品を配置するのではなく、手の感触が残るアンティークやざっくりとした木を加工したものでしつらえる。 そのようなルールに従い完成した空間は、オーナーと対話を重ねた分だけ彼の色に染まり、しっくりとなじんでいた。 彼は今日もバーカウンターの椅子に腰掛け、お客さんと笑顔の絶えない会話に花をさかせている。
Photo:Tofustudio